1957年の創業以来、スクリーンインキの製造技術を強みにして、印刷領域のみならず、さまざまな分野に新しい製品を提供してきた十条ケミカル。同社はインキ製造で培った技術に磨きをかけ、“脱インキメーカー”の道を歩み始めている。
日本の高度経済成長期に産業の発展に寄与してきたのがスクリーン印刷。この技術は、紙の印刷はもとより、異なる素材や形状にも柔軟に対応できる特長があることから、産業製品の製造プロセスでも使用されてきた。スクリーンインキはこうしたスクリーン印刷の需要の広がりとともに、さまざまな媒体にしっかりと定着する技術が開発されてきている。
小山社長:「当社は、軟質ビニールへのスクリーンインキを国内で初めて開発したことに始まりました。その後様々なプラスチック印刷など印刷領域の広がりに応えたインキ開発を行い、今ではグラフィックや家電、自動車関連などでも当社のスクリーンインキが使われるようになりました。国内外の幅広い分野でスクリーン印刷に対するニーズが膨らみ、市場が国内から海外に広がるにつれて、当社も中国、台湾、タイ、インド、メキシコなどへ海外展開を図ってきました」
このスクリーンインキ市場で、特に同社がアドバンテージを持つ製品が2つある。
スクリーンインキ製造の技術を磨き続け、日本の基幹産業に製品を納める十条ケミカル。
働きやすく技術革新を可能にする労働環境は、女性社員たちの働き方改革が作り上げた。
十条ケミカル株式会社
代表取締役社長
小山 裕
耐久性と速乾性のUVインキと導電・絶縁性の機能性インキが強み
車載用エレクトロニクス部材。
「近年、CD‒RやDVD‒Rは記録メディアとしての需要が落ちていますが、その代わりに、自動車部品やグラフィック関連の需要が増えています。例えば乗用車では、さまざまな環境条件に耐え、生産効率や視認性の良いUVインキの特徴を活かして、各種部品印刷に用いられています。雑誌関連では、表紙に立体感のある印刷ができるクリア系のUVインキが用いられています。当社のクリア系UVインキは、国内でも多く活用されています。さらに弊社のUV技術を活かしてジェルネイルを開発し、Sofirahという自社ブランドを展開しています。カラーのラインナップは400色になります」と、小山社長はUVインキの需要の広がりを説明する。
もう1つは、電気を通す導電性と電気を通さない絶縁性の性質を持つ機能性インキだ。例えば、パソコンのキーボードの中には薄いフィルム状の回路があるが、これは導電と絶縁の性質を持つインキを組み合わせて印刷し作られている。
小山社長:「当社の印刷基盤は幅広いパソコンメーカーのキーボードに使われています。スペックが非常に高くパソコンメーカーの要望に応えるのが大変でしたが、いまではパソコン関連に強い台湾系メーカーが主力の取引先となっています」
言いたいことが言える環境を作り社風改革することが会社を伸ばす
一部のデスクをフリーアドレスにした本社オフィス
まずは社内に意見交換の場であるオフサイト・ミーティングを行なった。社員が言いたいことを言える環境を作り、社員同士のコミュニケーションを良くして関係性を深められるよう社風を改革した。
また、女性社員は各拠点で働いており、それまで横の繋がりがとりずらく、拠点ごとに異なるやり方で行なっていたが、作業を統一して効率を上げるために「業務部」という部署を設けた。拠点の離れた女性社員達が、組織の一員として活躍するには、積極的にコミュニケーションを図ることが必要だった。
小山社長:「国内7拠点を結んだ業務部のネットワークでコミュニケーションの強化が図られ、産休・育休の取得向上や受注業務の一本化など、働き方改革が着実に進められています。活躍した社員は毎年、社内表彰をしていますが、昨年は業務の一元化を目的に改革を進めシステムを整えた女性社員を表彰しました。女性がこれまで以上に働きがいを持って活躍できる環境が整い、社内が活性化されています。働き方改革はこれからも続けていきます。」
高付加価値製品の開発・製造など技術革新が進む
働き方改革と共に進めているのが、 SDGsの取組み。水性インキの製造や、工場で使用される電力を水力発電による再生可能エネルギーに切り換えてゆくなど環境面に配慮した活動である。2021年には、使用電力を100%再生可能エネルギーに転換すると意思表示し行動する「再エネ100宣言RE Action」にも参加している。
同社がいま注力しているのは、スクリーンインキ製造の強みをさらに活かして、新たな分野を開拓していくこと。そのために同社はイノベーション部を設け、新しい製品開発に挑んでいる。
「例えば、自動車のEV化に当社の強みを活かしたいと考えています。具体的に進行しているものが2つあり、1つは、導電インキを高度化させ車のワイヤーハーネスの代替とし、車内空間の拡幅と軽量化に貢献すること。もう一つは弊社の分散技術を活かした、素材開発に取り組んでいます。私たちは、インキで培ってきた知識や経験、強みを活かして、高付加価値な化学製品を提供できる会社へと変貌を遂げようとしています」と小山社長は決意を語る。