漁獲から加工・生産、流通・販売までトータルにサポートし、「浜から食卓までを網羅し繋ぐ」体制を構築しているニチモウは現在、経常利益は5年連続20億円以上を達成し、2023年3月期グループの経常利益は32億円と業績好調だ。
その歩みにおける激動期は70年代後半。200海里規制が国際ルールとなり、遠洋漁業が困難となって水産各社は事業構造の転換を迫られた。競合他社がこぞってアラスカへの買付に殺到する中、ニチモウが向かったのは、他社がまださほど参入していないオホーツク海域だった。
「当時、社員自らがオホーツク海やカムチャッカ半島沿岸で操業する船に乗り込み、品質向上のため直接技術指導を行ったのです」と語る松本和明社長自身も当時、営業の最前線で奮闘した一人だった。生産現場とお客様を直結させて顧客満足が得られた結果、安定的な販売につながり、同じチームが始めから終わりまでワンストップで携わる重要性は、その後の組織づくりにも生かされたという。
日本一の漁網会社を目指して1910年に創業し、1919年の株式会社への改組を経て漁業関連の事業を広げ、1972年に商号変更したニチモウ株式会社
ニチモウ株式会社
代表取締役社長
松本和明
若手も臆せずチャレンジできる風土で社員一人が平均3億円以上を売り上げ
松本社長:「ニチモウでは『現場主義』を重んじ、若手も早くから漁場や船舶などの現場に赴く機会を持てます。一定の裁量を持たされるので、責任感が育まれるのです」
実際、ニチモウは約200人の従業員で年間600億円以上を売り上げるため、1人当たりの売上平均は3億円以上となる。さらに昨今は、1人何役もこなしてビジネスを推進。失敗を恐れずチャレンジできる風土で、新しい事業への取組が推奨されているという。
それというのも近年、水産物の需要が世界で拡大。一方、供給においては漁船漁業の生産量は頭打ちで、養殖を増やす必要がある。その点、ニチモウでは約40年前からギンザケの養殖を手がけてきたため、その知見やノウハウ、およびスーパーや外食産業、量販店とのネットワークを活かし、日本各地の養殖事業をサポートしている。
他地域での展開も見込める火力発電所の陸上養殖場への転用モデル
発電所の跡地を有効利用した養殖場を建設。ニチモウ(株)の養殖事業は40年を超える
さらに養殖の進化形として、九州での陸上養殖「みらいサーモン」では福岡県豊前市にある九州電力の火力発電所を転用している。再生エネルギーへの転換トレンドを受け、縮小しつつある火力発電所は、海水の取水・放水設備を備えるため、養殖場に適している。また、陸上養殖は閉鎖設備内で行うため、赤潮や海水温変動などのリスクが少なく、通年での養殖も可能なのだ。
このようにニチモウは、漁業・水産業のビジネスサポーターとして、地域の雇用創出・地方創生にも貢献している。