2000年の創業以来、金融系や業務系、エンタメ系などのシステム受託開発から顧客先にエンジニアが常駐するSES(システムエンジニアリングサービス)、業務用パッケージソフトの開発・販売など、多様な業態でIT事業を展開してきたパワーエッジ。前職でパッケージソフト開発などに従事してきた塩原正也代表取締役が、エンジニア主体の会社を目指し独立してから、現在は大阪・金沢・名古屋・静岡・京都に支社を持ち、11のグループ会社を率いて、社員数406名・売上高42億6800万円(2023年7月期・連結)となっている。
その過程は順風満帆ではなかった。創業から数年、SESで顧客から信頼を得て受託開発につなげることで順調に成長した。しかし、採用市場が活況で人材獲得に苦労し、約20名から社員が増やせない時期が訪れる。
転機となったのは、2008年のリーマンショック。一気に採用市場が冷え込んだことが同社には追い風となった。
「1回の人材募集に300人もの応募があるのです。その中で優秀な数名を採用するというのを続けていきました。その勢いで、2009年には『センチュリープロジェクト』として、100人の会社にしようという目標を掲げました」と塩原代表は振り返る。
創業24年目のパワーエッジ(本社:東京)はSES、受託開発、パッケージソフト開発・販売と事業を広げ、全国5ヵ所の支社展開と11社のM&Aにより毎年高い成長を続ける。
株式会社パワーエッジ
代表取締役
塩原正也
支社展開とM&Aで組織も利益率も急成長を実現
そうして売上が伸び始めたところで採用を中途社員から新卒社員をメインに切り替える。自社で人材を育成し、従業員エンゲージメントを経営の最重要課題と捉え、営業利益の多くを新卒採用につぎ込んだ。毎年新卒採用で社員を増やしていったが、100人にはなかなか届かないまま、目標を掲げてから5年が経った。そんなときに、ふと思い立ったのが支社を作ることだった。
塩原代表:「2015年、大阪に初めての支社を作ると一気に社員が15名増え、目標の100人を超えたのです。その後、支社を展開し、金沢、名古屋、静岡に進出して社員を増やしました」
次に塩原代表が考えたのがM&Aだった。2017年から検討を始めると、条件に合う会社が現れる。自社開発のパッケージソフトを持っているというのがその条件だった。そうして数社を取得して、現在はグループでアパレルの販売管理および展示会受注システム、タブレットPOSレジシステム、飲食店向けオーダーエントリーシステムなど、20以上の業務用パッケージを取り揃えている。そのほか、地方で地元自治体を顧客に持つ会社も長野や浜松、加古川、宮崎で取得。その後、コロナ禍によるリモートワークの普及で、地方でも東京の開発案件が行えるようになり、これも企業価値を大いに高めることとなった。
こうした戦略的M&Aで現在11社がグループ傘下にあり、グループ会社の社員数も180名を超える。また、営業利益の推移を見ると、グループ会社合計で直近では2億円を超えた。まさに会社の成長に大きく貢献しているのだ。
変化を前提として柔軟に対応
中期経営計画も作らない
マネージャー研修と年末に行われる恒例の納会では、塩原代表が自ら会を主催し交流を深める。
塩原代表:「VUCA(ブーカ)の時代には外部環境の変化に合わせ、自らも柔軟に変わっていくべきですから『朝令暮改』が信条です。朝言ったことを変えねばならない状況になったなら、夕方には変えられるだけの迅速な決断力が大事なのです」と迅速な意思決定を重視する。
社内での変化の一例は、同社のマネージャーのあり方にも見られる。15年前は会社がマネージャーを任命し、その下にチームを作っていたが、ある社員が「自分がなぜあのマネージャーの下に入らねばならないのか」と声を上げた。そこで翌年は、メンバーが自分でマネージャーを選ぶ形にした。するとマネージャーの一部から「自分はエキスパート志向だったのに」という声が上がった。
塩原代表:「そうしたことから、マネージャーを立候補制にしました。次にパワーエッジのマネージャーはどうあるべきか。必要な能力を身につけるにはどうすればよいかが大事になり、私が主催するマネージャー養成講座を始めました。養成講座の最後には、各自がマネージャーになったらどんなチームを作るかというマニフェストを発表します。社員から一定の支持を得れば、次年度のマネージャーとして立候補ができ、既存のマネージャーも含めて選抜が行われます。落選者は出ますが、社歴に関係なくマネージャーを目指すことができ、メンバーは上司を選べることになります」
経営上のメリットも大きく、グループ全体で社員が400名以上となり、全員とは接点が持ちにくくなっているが、この養成講座で、成長意欲や上昇志向のある社員が分かり、集団の上位2割に自ずと会える機会が増えたという。
このように、社内制度も作って終わりではなく、必要な変化を次々と起こし、進化を続けている。
どこまで会社を大きくできるか
仕事で「自己超越」を楽しむ
本社で開かれるグループ会社情報交換会
業務の内容を共有しグループ全体でシナジーを創出している
「自分でなくてもできることは人に任せ、自分しかできないことを自分がやるべき。たとえば採用は重要なので、グループ全社の最終面接は自分がやっています」という塩原代表。近い将来、ホールディングス化して自分はグループ全体を見る。パワーエッジの社長は、養成講座を受けた中から成長した誰かに任せたいという。
そんな代表自身の人生の目標は「自己超越欲求」。人間の欲求には生理的欲求・安全欲求・社会的欲求・自尊心・自己実現があり、これらを順に満たすことがやる気の源泉になるというのが「マズローの欲求」だが、その先の6段階目である「自己超越欲求」を仕事で満たしたいのだという。
「会社の経営や成長が楽しいのです。どこまで会社が大きくなるか、リアルなRPGゲームで挑んでいるようなもの。トラブルが起きても、そこで途轍もないアイデアが出せたりするので、むしろワクワクします」と語る塩原代表からは、挑戦への意欲が溢れている。