竜製作所は、愛知県名古屋市に本社を置く、創業70年を迎える専用機械メーカーの老舗。自動車業界をはじめとした日本の“モノづくり”産業に、必要な専用機械を開発・設計・製造し提供する事業を主軸に、専用機械の製造で培った技術を活かした客先ブランド機械の受託生産(OEM)事業、航空機部品製作事業、さらにはAIロボティクスまで、さまざまな戦略を展開し躍進が続いている。
同社の令和4年4月期の売上げ71億2000万円のうち、約80%は専用機械製造が占める。
石田社長:「専用機械とは、ある特定の作業を専門に行う機械のことで、お客様の要望に叶う仕様にして作り上げた特注機械のことです。当社では自動車事業に欠かせない搬送機、組付機、検査機などの専用機械を製造。すべてオーダーメイド生産であるため、お客様との綿密な打合せを繰り返して作り上げています。オーダーメイドは何もないところから形にするクリエイティブな仕事なので、営業・設計・製造のすべての分野で高い技術や技能が求められます」
機械の制御盤や部品製作に始まり、日本“モノづくり”を支える専用機の製造で高い技術を磨いた竜製作所が、年商1000億円を目指し躍動。
株式会社 竜製作所
代表取締役社長
石田恭一郎
専用機械製造の技術力を活かしOEMの製造に挑戦
米国・インビアロボティクス社の倉庫内搬送ロボット。モバイルロボットと人工知能を兼ね備えたソフトウェアを用い、倉庫内作業の生産性を向上させる。このロボットは倉庫内の製品の収納管理を人間に代わり行うことができる(AIロボティクスショールーム)。
ひとつは専用機械を製造する高い技術力を活かして、米国・シリコンバレーの企業が開発する先進機器のOEM製造を行うことだ。
石田社長:「ビジネスのさらなる拡大を望むには、客先ブランドの機械の受託製造に本格的に取り組む必要があると考え、新しい技術や製品のアイデアが渦めく米国・シリコンバレーに飛びました。そこで出資者を探している有望な製品を開発し製造を始めるスタートアップ企業を見つけ出し、出資や製品の日本・アジアでの展開をサポートすることを条件にOEM生産の契約を結んだのです」
LUUM社のまつげのエクステ・ロボット。通常の施術台に横たわるだけで、ロボットが安全に、人間の4分の1ほどの時間でまつげのエクステを取り付けてくれる。
その中でも特に2020年6月に提携したインビアロボティクス社は、次世代の倉庫自動化ソリューションを提供するスタートアップ企業で、同社は名古屋市緑区に「AIロボティクスショールーム」を開設し、ロボットが実際に倉庫内で稼働する。その様子を興味を持った企業が見学できるようにするなど、国内のマーケティングに積極的に取り組んでいる。
フロンの常識を破り画期的な空調機器の開発へ
もうひとつの取り組みは、自社でマーケティング力のある独自の製品を開発すること。一例として、オゾン層の破壊や温室効果に影響を与え大きな環境問題にもなっている空調機器の課題を解決する機器の製造だ。
環境をそこなうフロンを使っている空調機器に対し、同社はフロンを一切使わない空調機器の開発を行った。2024年に市場に投入予定で準備を進めている。この空調機器は屋外への廃熱がなく、電力はこれまでの半分ほどになるという。この空調機器の実現のために大垣市に「イノベーションセンター」を開発拠点として開設した。
石田社長:「フロンを使わない空調機器なんて、コスト高になり商品化できない、無謀な取り組みだ、と誰もが思っていました。しかし誰もができないと思っていたことを成し遂げ、新たな価値を生み出す。それこそモノ作りに携わる我々の醍醐味というものです」
新製品は、当面は工場などの需要を見込んでおり、需要が高い東南アジア諸国での製造に大きな期待を寄せている。
こうして竜製作所は、専用機械製造を主な柱としながらも、スタートアップ企業への投資によるOEMの拡大、自社の独自製品の開発を第二、第三の柱とすることで1000億円企業への道筋を明確にしてきている。
採用面接はすべて社長が自ら行う
石田社長:「オーダーメイドの専用機を作る私たちの仕事は、クリエイティブであるが故に、人によってアウトプットのクオリティが大きく変わってきます。まさに『人』が財産の産業であるといえます。それだけに人材選びから人材育成、働きやすい環境作りには力を入れています」
人材採用では、新入社員や中途採用、パート採用に至るまで、すべての面接を石田社長が行い、人となりを見極めている。
石田社長:「人間性の育成という面では、当社が何を大切にしているのかを『竜製作所十訓』を名刺サイズにして社員に携帯するように配布しています。例えば『お客様の立場にたて、究極の満足を与えよ』などという訓示がありますが、ひとつずつ理解して行動していただければ、当社が求める理想の人材になってくれるものと信じています」
また福利厚生については、入社、結婚、子育て、介護など、社員のライフステージに合わせて、そのときに本当に必要とされる制度を実施できるようにしている。
例えば、会社独自の介護休暇。介護によって貴重な人材が退職するのを防ぐために設けた。また、傷病手当に至っては、一般的に傷病手当で支払われる額は給与の70%ほどであるものの、同社では100%支払われる。女性社員が育児などでフルに働くことが難しくなった場合、状況に応じて働き方を選択できる。
介護や怪我、育児などでフルに働けない、あるいは休暇が必要になったときにフレキシブルな対応をしてくれる同社の福利厚生制度は社員にとってありがたい。
石田社長:「シリコンバレーに投資する会社なんて、それだけでもワクワクしてきますよね。できないと思われていたことを、多くの人の力や才能を集めて成し遂げ、新しい価値観を創り上げていく。そうした高揚感を持てる会社が竜製作所なのです」
これからも石田社長はイノベーションへの挑戦を続けたいと語る。