天昇電気工業は1936年の創業以来、プラスチック加工製品の製造・開発を主な業務としており、東証上場も業界内でいち早く成し遂げた。
代表取締役社長の石川忠彦氏は、プラスチック(合成樹脂)という素材について、次のように語る。
石川社長:「プラスチックは20世紀初頭にドイツで開発された比較的新しい素材です。金属や木材などをプラスチックに置き換えることで、自動車や家電・ OA機器などの耐久消費財の軽量化が可能になり、加工しやすい素材として製造業を支え、かつ省エネ推進の一翼も担ってきました。最近は、海洋プラスチック問題などでプラスチックは悪のように言われ、“削減”にばかり目が向きがちですが、プラスチックは回収・再利用が比較的容易で、資源の消費や廃棄物の発生を抑制する循環型社会に本来は適しています。 CO2削減やSDGsの取り組みと親和性が高く、将来性があるのです。一人ひとりが正しく処分すれば、プラスチックによる環境負荷は少ないし、それ以上に、軽くて丈夫という優れた特性は社会を豊かにしていく素材だと私は考えているのです」
積極的な投資で事業を拡大M&A、新工場稼働で売上高は過去最高を見込む成長を支えるのは“多様な人財”と失敗を恐れず挑戦できる社風
天昇電気工業株式会社
代表取締役社長
石川忠彦
コロナ禍でも同社の業績は好調だ。背景には積極的な投資がある。昨年7月、独自の樹脂射出成形技術を持つ竜舞プラスチック(群馬県太田市)を子会社化し、技術力 向上、販売チャンネルの多様化等で事業基盤・規模拡大を狙う。また、今年10月にはメキシコ(ロサリート)の第2工場が稼働を始め、米国からプラスチックコンテナ(流通業で幅広く使用されている箱)などの物流資材を数多く受注。その結果、来期の連結決算の売上高は過去最高の300億円超が見込まれる。
100年に1度の大変革期
次世代につながる成長のため自社製品の開発に注力
自社開発商品の『ミッペール』(左)、『テンサートラック』(中央)と『テンレイン・スクラム』(右)。
石川社長:「現在の事業の内訳は、自動車産業からの受注が6割強、家電・OA機器など非自動車分野からの受注、とりわけ自社製品がそれぞれ約2割です。今後は非自動車分野と自社製品を拡大させ、各々3分の1程度の割合にしたいと考えています。特に、自社ブランド製品の開発と製造には力を入れています」
同社が得意とするのは物流資材の製造・開発だ。工業用プラスチックコンテナの『テンバコ』シリーズは、販売実績50年を誇る製品。シンプルなデザインと優れた強度で、物流現場ではプラスチックコンテナの代名詞として浸透している。電子部品を静電気破損から守るために開発された電子部品実装機対応導電性ラック『テンサートラック』も、機能性と使いやすさで信頼が厚い。
物流資材以外でも、医療廃棄物の専用容器の『ミッペール』や、雨水貯留浸透施設の『テンレイン・スクラム』で同社は注目を集める。
『ミッペール』は、注射針や手術室の廃棄物など、感染の危険がある医療廃棄物専用のコンテナだ。注射針や鋭利な医療器具も貫通しにくい強度を持ち、においや液体の漏れを防ぐ確実な密閉を実現。しかも焼却施設でそのまま処分可能であり、医療現場では必須のものとなっている。
一方、地球温暖化による気候変動の影響で増えているゲリラ豪雨に対して、土に埋めることで一時的に雨水を貯め、浸水被害を防ぐ土木資材が『テンレイン・スクラム』だ。プラスチック製なので軽く、片手で持ち運ぶことができる上に、ジョイント部材もなく組み立てが簡単でありながら強いのが特長だ。特許技術により50年の耐久、震度6の耐震を誇る堅牢性と強度、そして水槽内の余裕を同時に満たす。さらに、重機が不要であるため施工期間が短くて済み、人手不足に悩む建設業界、限られたコストで有効性を高めたい施工業者に恩恵をもたらしている。
同社は、自社製品をさらなる成長につなげていく考えだ。
フラットな人間関係と挑戦できる環境づくりで社員の参画意識が向上
石川社長:「企業の成長に必要なものは、ヒト・モノ・カネといわれますが、最も大切なのは“人”です。当社はすべての業種で新卒・中途とも積極的に採用しています。一般的にメーカーは中途採用に消極的になりがちですが、異なる価値観が入り込むことによって視野が広がる。社員550人のうち200人は中途採用です。連結だと社員は1000人。年齢も性別等も多様性に富む“人財”は、イノベーションを産むために不可欠だと考えています。社員とフラットで風通しのよい人間関係を結ぶことも重視しています。目指すのは、失敗を恐れず新しいことに挑戦できる社風です。若手中心のチームが思いもよらないアイデアを出してくることもある。弊社では若手社員を中心に自社商品開発チームなどを設けており、社長の私に直接アイデアを持ってこられるようにしています。私は若手からの声をとても歓迎し、大切にしています。面白いと思ったことに取り組める組織は社員の参画意識が向上し、企業が伸びる力になりますから」
そう語る石川氏は1979年に三井物産へ入社して以来、化学品部門のプラスチック分野を歩いてきた。
石川社長:「実は、私が社長になった2013年当時は、当社の業績が最も厳しいときでした。しかし、プラスチックの需要が大きい自動車産業に活路を見出し、プラスチック加工製品の製造・開発の道を切り開いてきました。メーカー各社の厳格な製品の要求にも、高い技術力で期待に応えてきたことが当社の強みとなりました。そうした努力を重ねた結果、現在は国内の自動車メーカー全てと取引するまでになりました。3年前には、将来を見据えて経営理念を『ものづくりを通じて、豊かな社会を創造しよう』に刷新。非自動車分野、自社製品開発も好調な今、プラスチックのパイオニアである当社は新たな成長期に入ったと確信しています」
今後も同社は高い技術力を活かし、大いなる飛躍をめざす。